原状回復でもめる店舗には共通点があります。工事が終わって請求書が届いてから、はじめて範囲の話をしていることです。
その時点で交渉できることは、ほとんど残っていません。原状回復は「工事の値段の話」に見えて、実際は「どこまでが借主の負担か」を決める話です。決める場所は、工事の前にしかありません。
この記事では、実際にもめる4か所と、それぞれをいつ手当てすれば間に合うのかを整理します。
もめるのは、この4か所
| もめる場所 | 中身 | 手を打てる時期 |
|---|---|---|
| ① 範囲 | スケルトンまでか、造作を残せるか | 契約書を読んだ時点/解約通知の前 |
| ② 業者の指定 | 貸主指定の業者しか使えないか | 同上 |
| ③ 経年劣化 | 通常の使用による劣化まで請求されているか | 見積書が出た時点 |
| ④ 敷金 | いつ、いくら返るか。相殺の順番 | 解約通知〜明け渡し |
①と②は契約書に書いてあることが多く、③と④は見積書と精算書で決まります。つまり紙で決まる話であって、当日の交渉で覆せる部分は限られています。
① 範囲:「スケルトン」の意味が一致していない
いちばん多いのがこれです。同じ「原状回復」という言葉で、貸主と借主が違うものを指している状態で工事が始まります。
- 貸主は、引き渡し時の状態(何も無い箱)を指している
- 借主は、自分が壊した部分の修繕を指している
契約書に「スケルトン渡し」と書かれていれば、前者です。造作・什器・厨房設備・空調・給排水の引き込みまで撤去対象になることがあります。
先に読むところ
- 原状回復の定義が書かれた条項
- 引き渡し時の状態(前テナントの造作を引き継いでいないか)
- 貸主の書面による承諾を得て設置したものの扱い
引き渡し時に前テナントの造作が残っていた場合、それを撤去する義務があるかどうかは契約と経緯によって変わります <span class=”flag”>要確認</span>。当時の書面が残っているかどうかで結論が変わる部分なので、探しておいてください。範囲そのものの考え方は原状回復はどこまでやるのかにまとめています。
そして、範囲の話には出口が2つあります。撤去して返すか、造作を残したまま次の借主へ引き継ぐかです。後者が成立すれば工事そのものが不要になることがあります(→居抜きで渡すか、原状回復して返すか)。この検討は、解約通知を出す前にしか間に合いません。
② 業者の指定:見積もりが1社しか取れない
貸主が業者を指定している契約は珍しくありません。このとき起きるのは、
- 相見積もりが取れない(比較対象がない)
- 単価が高くても、断る根拠がない
- 工程を短縮できず、賃料の二重払いが伸びる
指定業者そのものが違法というわけではありません。問題は、指定であることを知らないまま解約通知を出してしまい、交渉の余地がなくなることです。
打てる手
- 指定の範囲を確認する。「全工事」なのか「躯体に関わる部分だけ」なのかで大きく変わります
- 内訳の開示を求める。一式表記のままでは、どこが高いのか誰にも分かりません
- 自社手配できる部分を切り分ける。什器・厨房機器の撤去は、工事と別に動かせることがあります
詳しくは貸主が業者を指定してきたときと見積もりの読み方と交渉にまとめています。
③ 経年劣化:「使ったから傷んだ」と「時間で傷んだ」を分ける
時間の経過で価値が下がった分まで、借主が新品に戻す義務を負うのか——ここが③です。
- 床の色あせ、壁紙の変色、設備の寿命は、通常の使用でも起きます
- 一方で、事業用の賃貸借は住居用とは扱いが異なることがあります
- 契約書に「経年劣化を含めて原状回復する」と明記されている場合もあります
「経年劣化は借主の負担ではない」と一律に言い切れるものではありません <span class=”flag”>要確認</span>。契約書の記載が優先される場面が多く、そこを読まずに交渉を始めると噛み合いません。考え方の整理は原状回復と経年劣化と店舗の原状回復ガイドラインにまとめています。
見積書が出たら、項目ごとに「① 自分が壊した」「② 使って傷んだ」「③ 時間で傷んだ」に仕分けしてください。この仕分けをした状態で聞くと、話が具体的になります。
④ 敷金:返ってくる前提で資金繰りを組まない
敷金は、原状回復費と相殺されてから返ってきます。そして返却の時期は、明け渡しから数か月後という契約も普通にあります。
やってはいけないのは、敷金の返還を当てにして退去後の支払い予定を組むことです。返還額が想定より小さい、時期が遅い、という2つの理由で資金繰りが詰まります。
- 返還の時期が契約書に書かれているか
- 償却(敷引き)の定めがあるか。ある場合は最初から戻りません
- 未払賃料・違約金との相殺順序
このあたりは解約予告と敷金の扱いにまとめています。
時系列で見る「間に合う/間に合わない」
1. 閉店を検討している段階 ── 契約書を読む。範囲・指定業者・解約予告期間・敷金の3点セットを確認。ここが最も自由度が高い 2. 解約通知を出す前 ── 居抜きで渡せる可能性を検討する。通知を出したあとでは選べなくなることがあります 3. 見積書が出た時点 ── 内訳の開示を求め、経年劣化の仕分けをする 4. 工事着工後 ── 範囲の交渉はほぼ終わっています 5. 請求書が届いた時点 ── できるのは支払い方法の相談まで
「まだ早い」と思っている段階が、いちばん打てる手が多い時期です。工事の流れそのものは原状回復工事の流れを参照してください。
費用を下げるより、先に「戻るお金」を作る
原状回復の交渉には限界があります。一方で、撤去する前の厨房機器・什器・食器には値段が付くことがあります。
- 撤去してしまえば、値段は付きません
- 工事業者に「処分」として任せると、費用として計上されます
- 売れるものを先に出せば、処分費が減り、手元にお金が残ります
順番は「売れるものを出す → 残りを撤去」です。逆にすると戻せません。考え方は明け渡しと買取の順番と売れるもの・売れないものにまとめています。
よくある質問
Q. 見積もりが高い気がします。値切れますか。 A. 内訳が出ていれば交渉の余地があります。「一式」表記のままでは、高いかどうかを誰も判断できません。まず内訳の開示を求めてください。
Q. 契約書が見当たりません。 A. 貸主または管理会社に写しを求めてください。原状回復の話は契約書の記載が出発点になるため、無い状態では交渉が進みません。
Q. すでに工事が終わって請求が来ています。 A. 項目ごとに、契約書の定めと照らして確認してください。支払いの可否や減額の主張については、弁護士等の専門家にご相談ください。当サイトでは個別の法的判断はできません。
Q. 貸主と話がつかない場合はどこに相談しますか。 A. 賃貸借契約に関する相談窓口や、弁護士への相談が経路になります。トラブルが金額の大きいものになるほど、早い段階で専門家に入ってもらうほうが結果的に費用が小さくなります。
まとめ
- もめるのは範囲・業者指定・経年劣化・敷金の4か所に集中する
- 範囲と業者指定は契約書で決まっている。解約通知の前に読む
- 経年劣化は「一律で借主負担ではない」とは言えない。契約書の記載が優先されることがある
- 敷金は返る前提で資金繰りを組まない。償却と相殺、返還時期を確認する
- 請求書が届いてからでは動かせない。打てる手は着工前にある
- 費用を下げる交渉より先に、売れるものを出すほうが手元に残る
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本記事は、店舗の原状回復をめぐって一般に起きやすい論点を整理したものです(確認日:2026-08-21)。原状回復の範囲・費用負担・敷金の扱いは、個々の賃貸借契約の内容と経緯によって結論が変わります。本記事は法的助言ではありません。具体的な負担の可否や交渉については、弁護士等の専門家へご相談ください。
当センターは、閉店される店舗と買取・引き取り事業者をつなぐ情報サイトです。当センター自身が原状回復工事・法律相談・行政手続きの代行を行うことはありません。

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