閉店を決めて原状回復の見積もりを受け取ったとき、多くの方が最初に調べるのが「国土交通省のガイドライン」です。
そして、こう考えます。「経年劣化の分は貸主負担のはずだ」「通常の使用で傷んだ部分まで払う必要はないはずだ」と。
この理解は、住宅であれば概ね正しいのですが、店舗ではそのまま通らないのが一般的です。 最初にここを押さえておかないと、交渉の入り口を間違えます。
ガイドラインは、誰のためのものか
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、民間賃貸住宅=居住用の物件を想定して作られたものです。
したがって、事業用の店舗・事務所には直接は適用されないという整理がなされるのが一般的です。 裁判で参考にされることがまったくないわけではありませんが、「ガイドラインにこう書いてある」だけで店舗の負担範囲が決まるわけではないと考えておくのが安全です。
さらに、ガイドラインは法律そのものではありません。 住宅であっても、最終的には契約内容が問題になります。
店舗で基準になるのは、契約書
店舗の原状回復は、賃貸借契約書の条項が出発点です。事業用では契約自由の幅が広く認められる傾向があり、通常損耗まで借主負担とする特約が置かれていることが珍しくありません。
飲食店で特に多いのが、次の形です。
| よくある条項 | 意味するところ |
|---|---|
| スケルトン返し | 内装・設備を撤去し、コンクリート躯体の状態に戻す |
| 通常損耗も借主負担 | 「経年劣化だから」という主張が通りにくくなる |
| 貸主指定業者による施工 | 相見積もりが取れない場合がある |
| 明渡し完了までの賃料 | 工事が延びた分だけ賃料が発生する |
➡️ つまり、住宅の感覚で「経年劣化は貸主が持つはず」と考えて交渉を始めると、噛み合いません。 経年劣化の扱いがどう変わるかは原状回復と経年劣化で詳しく整理しています。
それでも交渉の余地が残る3か所
契約書が優先するとしても、支払う金額が言い値で決まるわけではありません。 実務で動くのは、主に次の3つです。
1つめは、範囲です。 入居時の状態が争点になります。居抜きで借りた場合、前のテナントが作った部分まで撤去する義務があるのかは、契約と引き渡し時の状態次第です。 入居時の写真・図面・引き渡し時の確認書が残っていれば、それが最も強い材料になります。どこまでが範囲に入るかは原状回復の範囲にまとめました。
2つめは、単価と数量です。 見積書の項目を分解すると、一式表記のまま金額が乗っている箇所が出てきます。ここは説明を求めてよい部分です(原状回復の見積もりをどう見るか)。
3つめは、工期です。 明渡しが遅れれば賃料が積み上がります。「安い業者にしたら着工が1か月先だった」という形で、総額が逆転することがあります。
そもそも、原状回復をしない道もある
造作を残したまま次の借主へ引き継げる場合、原状回復工事そのものが不要になることがあります。 いわゆる居抜きです。
ただし、これは貸主の承諾が前提であり、必ずできるわけではありません。損得の比較は居抜きと原状回復、どちらが得かにまとめています。
判断の順番としては、「原状回復の見積もりを取る」より前に「居抜きの可能性があるか」を確認するほうが合理的です。 順番を逆にすると、不要だったかもしれない工事の交渉に時間を使うことになります。
トラブルになりやすい3つの型
1. 入居時の状態の記録が無い ── 何をどこまで戻すかで水掛け論になります 2. 口頭の合意だけで進めた ── 「その部分は残していいと言われた」は、後から確認できません 3. 退去日が先に決まってしまった ── 期限に追われると、見積もりを比較する時間がなくなります
3つとも、閉店を決めた直後に手を打てば避けられるものです。 逆に、明渡しの2週間前に気づくと、選べる手はほとんど残りません。
確認しておきたいこと
- 契約書の原状回復条項・特約・指定業者条項を、まず読む
- 入居時の写真・図面・引き渡し時の確認書を探す。あるかないかで交渉力が変わる
- 居抜きで引き継げないかを先に確認する
- 見積もりは範囲・単価・工期の3つに分けて見る
- 契約内容の解釈で相手と食い違ったら、契約書を持って専門家に相談する
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本記事は、店舗の原状回復に関する一般的な考え方を、当サイトが確認した時点で整理したものです(確認日:2026-08-20)。個別の契約でどこまでが借主の負担になるかは、契約書の内容と物件ごとの事情によって異なり、本記事の記載がそのまま当てはまるとは限りません。 具体的な判断や交渉にあたっては、契約書をご用意のうえ、弁護士等の専門家にご相談ください。

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