閉店ではなく移転するとき、厨房機器は持っていくべきか|「運ぶ費用」と「売って買い直す」の分かれ目

店を移すと決めた人が、まず当たり前のように考えるのが「機械は持っていく」です。

まだ使えるものを買い直すのはもったいない。だから運ぶ。この判断が、移転の見積もりを膨らませるいちばんの原因になります。

実際には、運ぶほうが高くつく機器と、運んだほうが確実に安い機器が、はっきり分かれています。そして分かれ目は「機械の値段」ではありません。新しい店の条件のほうにあります。

移転は「閉店と開業を同時にやる」こと

移転の段取りが読みにくいのは、旧店舗の明け渡しと、新店舗の工事が、同じ時期に並んで走るからです。

やることの中身は、閉店するときとほとんど変わりません。原状回復があり、解約の予告があり、届出があり、機器をどうするかの判断があります。違うのは一点だけで、「機器の行き先の候補が、もう一つある」ことです。

  • 閉店 → 売るか、処分するか
  • 移転 → 売るか、処分するか、運ぶか

この三つ目が増えたぶん、判断が一段ややこしくなります。そして「運ぶ」は、いちばん先に決めたくなるのに、いちばん最後にしか決められません。理由は次のとおりです。

「運ぶ」を決められるのは、新店舗の図面が出てからです

持っていけるかどうかは、その機械の状態ではなく、新しい店の条件で決まります。

図面が出るまで分からない5つ

確かめること合わないとどうなるか
ガスの種類(都市ガスかLPガスか)種類が違うと、そのままでは使えません。部品の交換で対応できる機器もありますが、費用と可否は機種ごとに違います
電気の容量と相性(単相/三相、契約容量)三相の機器は、三相が引かれていない物件では動きません。引き込みの工事が必要になることがあります
排気・ダクトの位置と能力フードの位置と大きさが違うと、コンロやフライヤーの置き場所が変わります
給排水の位置シンクや食器洗浄機は、配管の位置に合わせられるかどうかで置けるかが決まります
搬入経路の寸法旧店舗から出せても、新店舗に入らないことがあります。扉幅・廊下・エレベーター

このうち、いちばん事故になりやすいのがガスの種類です。旧店舗が都市ガスで、新店舗がLPガス(またはその逆)だと、コンロ・フライヤー・スープレンジ・炊飯器まで、ガスを使う機器がまとめて引っかかります。

物件を決める段階で、ガス種と電気の容量だけは先に聞いてください。この2つが分かるだけで、「持っていける機器」のおおよその範囲が決まります。

「運ぶ費用」に、実際は何が乗るか

運搬費だけを見て比べると、必ず外します。機器を動かすときに発生するのは、運賃だけではありません。

項目中身
切り離し(撤去)ガス・電気・給排水から外す作業。有資格者の作業が要る部分があります
搬出旧店舗から運び出す。階段・狭い通路・吊り作業があると跳ねます
運搬距離と台数、車両の大きさ
保管新店舗の工事が終わるまで置き場が要る場合。日数で費用がかかります
搬入新店舗へ入れる。経路が狭ければここでも跳ねます
据付・接続設置して、ガス・電気・給排水につなぐ
調整・試運転動くことを確かめる。機種によってはメーカーの立ち会いが要ります
部品の交換ガス種が違う場合の部品、電源の仕様違いへの対応

「保管」を見落とす人がとても多くいます。旧店舗の明け渡し日と、新店舗の工事が終わる日は、たいてい一致しません。その隙間の日数ぶん、どこかに置いておく必要があります。冷蔵・冷凍機器は倒したまま置けないものがあり、置き方にも条件が付きます。

ここまで積み上げた額が、同じ性能の中古機器を買い直す額を超えていないか。これが判断の全部です。

持っていくべきもの・置いていくべきもの

一台ずつ判断します。「厨房ごと運ぶ」と決めた瞬間に、判断が止まります。

分類例考え方
持っていく価値が高いその店のために特注したもの、作り付けの作業台、まだ新しく、同じものを買うと高い機器買い直しが利かないもの。特注品はそもそも中古市場に出ません
持っていく価値が高い使い慣れた道具類(鍋・包丁・調理器具・食器)運搬費に対して量が軽く、味と段取りに直結します
判断が割れる冷蔵庫・冷凍庫・製氷機年式と稼働時間しだい。古いものを運ぶと、移設先で不調が出たときに買い直しになります
置いていくほうが多いガスを使う機器(ガス種が違う場合)部品交換の費用と、交換できるかどうかを先に確認
置いていくほうが多い造作として付いているもの(フード、ダクト、給湯器、空調)借主の持ち物でないことがあります。契約書で確かめてから
置いていくほうが多い大型で重く、経路が厳しいもの出すだけで吊り作業が要るなら、運賃より作業費が効きます

とくに空調・給湯器・フードは、「自分の持ち物だと思っていたら貸主の設備だった」が起きやすいところです。外して持っていくと原状回復の対象になります。契約書を先に見てください。

搬出できるかどうかの見方は 厨房機器は「売れるか」より先に「出せるか」|搬出経路で買取が止まる5つの典型と、撤去当日の段取り にまとめています。運ぶ場合も売る場合も、まず出せるかどうかは同じ話です。

持っていかないと決めた機器は、どうするか

移転では、ここが後回しになりがちです。新店舗のことで頭がいっぱいになり、旧店舗に残した機器の段取りが遅れます。

遅れると、選べる手が減ります。明け渡しの期限が迫った状態では、買い取ってもらうための日数が取れず、まとめて処分費を払うことになります。

順番も閉店のときと同じです。原状回復の工事を先に入れると、売れるはずだったものが工事の中でまとめて外されます。買取をどこに差し込むかは 明け渡しまでに、買取をどの順番で入れるか|先に原状回復を頼むと、売れるものが消えます に整理しています。

判断する順番

  1. 新店舗のガス種・電気容量・排気・給排水・搬入経路を確認する……物件を決める前に聞けるものは聞いておく
  2. 旧店舗の契約書で、どれが自分の持ち物かを確かめる……造作・空調・給湯器
  3. 機器を一台ずつ、3つに仕分ける……持っていく/置いていく/迷う
  4. 「持っていく」の見積もりを、切り離しから試運転まで一式で取る……運搬費だけの見積もりで比べない
  5. 同じ機器を中古で買い直した場合の額を、あわせて調べる……居抜き・中古厨房機器で開業費用を抑える|失敗しない選び方と確認ポイント
  6. 比べて決める……1台ごとに、運ぶほうが安いか、買い直すほうが安いか
  7. 置いていくと決めた機器の、買取・引き継ぎ・処分の段取りに入る……明け渡し日から逆算する

4と5を同じ時期にやってください。片方だけだと比べられません。「持っていく前提」で見積もりを取り始めると、比べる相手がないまま金額が確定します。

よくある失敗

  • 物件を決めてから、ガス種が違うと分かった。ガス機器がまとめて持っていけず、買い直しになった
  • 運搬費だけで比べた。切り離しと据付、試運転が別に乗り、想定の倍になった
  • 保管期間を見込んでいなかった。明け渡しと新店舗の完成に3週間の隙間があり、置き場の費用が発生した
  • 空調とフードを外して持っていった。貸主の設備で、原状回復で戻すことになった
  • 古い製氷機を運んだ。移設後に不調が出て、結局買い直した
  • 旧店舗に残した機器の段取りを後回しにした。期限が迫り、買取の日程が取れずに処分費を払った
  • 搬入経路を測っていなかった。新店舗の扉から入らず、当日に持ち帰りになった

よくある質問

Q. 移転先が決まる前に、旧店舗の機器を売ってしまってもいいですか。

新店舗の条件が分かる前に売ると、後で買い直すことになりかねません。ただし、ガス種や電気容量がどうであれ持っていかないと決まっている機器(古いもの、経路が厳しいもの、造作のもの)は、先に手放しても困りません。判断がつかない機器だけを残し、図面が出てから決めるのが現実的です。

Q. 同じ都市ガスなら、コンロはそのまま使えますか。

ガス種が同じでも、そのまま使えるとは限りません。設置の条件(周囲の壁からの距離、排気の能力)が物件ごとに違い、新店舗では置けないことがあります。図面と機器の寸法を突き合わせ、施工する業者に確認してください。

Q. 冷蔵庫・冷凍庫は、運んですぐ使えますか。

機種によって、設置してから一定時間おいてから電源を入れるよう指定されているものがあります。運搬中に横にしたかどうかでも扱いが変わります。取扱説明書か、メーカー・設置業者の指示に従ってください。開店日の直前に運び込む段取りだと、ここで詰まります。

Q. 移転でも、保健所への届出はいるのですか。

場所が変われば、新しい場所での手続きが必要になります。旧店舗側の手続きも別に発生します。内容と時期は管轄の保健所によって異なるため、物件を決めた時点で管轄の窓口に確認してください。工事の前に相談しておくと、厨房の作りでやり直しになるのを防げます。

Q. 結局、運ぶのと買い直すのはどちらが安いのですか。

機器ごとに違うので、一律には言えません。傾向として、特注品・作り付け・新しい機器は運ぶほうが有利で、古い機器・ガス種が合わない機器・経路が厳しい機器は置いていくほうが有利になりやすい、という程度です。1台ずつ見積もりで比べるのが唯一の確かめ方で、その手間を惜しむと、まとめて運んだ後に買い直すことになります。


厨房機器を「運ぶか、売るか」で迷っている段階でも、置いていくと決めた機器の見積もりは先に取れます。明け渡しの日程が決まっている場合は、早めにご相談ください。

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