閉店の段取りを調べると、失業保険(雇用保険の基本手当)の話はたいてい従業員の側で出てきます。離職票を渡す、離職理由を正しく書く。これは従業員への伝え方と解雇予告にまとめたとおりです。
では、店を閉めたオーナー本人はどうか。
先に結論を書きます。オーナーとして働いていた期間について、失業保険は原則として出ません。 ただし例外が3つあり、そのうち1つは開業したときに手続きをしていたかどうかで決まります。閉店を決めてからでは間に合わない種類の例外です。
なぜオーナーは対象にならないのか
雇用保険は、雇われて働く人のための保険です。基本手当を受けるには、離職の日以前2年間に被保険者期間が通算12か月以上あることが原則として必要です(ハローワークの案内による)。
オーナーは、この「被保険者」になりません。
| 立場 | 雇用保険の扱い |
|---|---|
| 個人事業主(事業主本人) | 被保険者にならない |
| 事業主と同居している親族 | 原則として被保険者にならない |
| 株式会社の代表取締役・監査役 | 被保険者にならない |
| 取締役で、同時に店長・部長などとして従業員的に働いている人 | 雇用関係が認められれば被保険者になりうる |
※愛媛労働局「雇用保険の被保険者」の表をもとに整理。
理由は、事業主や役員は会社や店に「雇われている」のではないからです。会社と役員の関係は、雇用ではなく委任の規定に従うとされています(会社法330条)。
つまり、個人で店をやっていた期間、法人の代表として店をやっていた期間は、何年続けていても被保険者期間として積み上がっていません。 閉店で収入が途絶えても、この期間だけを根拠に基本手当を受けることはできない、というのが出発点です。
例外1:開業の前に会社員で、離職から1年以内に閉めた
基本手当の受給期間は、原則として離職した日の翌日から1年間です。
開業の前に会社員として雇用保険に入っていて、その会社を辞めてから1年以内に店を閉めた場合は、前の会社での被保険者期間にもとづく受給資格が、まだ期限内に残っている可能性があります。
- 例:会社を辞めて3か月後に開業し、8か月で閉店した → 離職から11か月。本来の受給期間の残り約1か月が問題になる
- ただし残り期間が短いと、所定の日数を受け切れないことがあります。受給期間を過ぎた分は受けられません
開業にあたって再就職手当などを受けていた場合は扱いが変わります。手元に前の会社の離職票があるなら、それを持ってハローワークで「まだ受けられる日数があるか」を確認するのが最短です。
例外2:開業から2か月以内に「受給期間の特例」を申請していた
2022年7月1日から、離職後に事業を始めた人向けの特例ができています。
事業を行っている期間を、最大3年間、受給期間に算入しないという仕組みです。厚生労働省のリーフレットは、この特例の目的を「仮に事業を休廃業した場合でも、その後の再就職活動に当たって基本手当を受給することが可能になります」と書いています。
飲食店に当てはめると、こうなります。
- 会社を辞めて、翌日に開業した
- 開業から2か月以内に特例を申請していた
- 2年後に閉店した
- → 閉店した日の翌日から、本来の受給期間(1年)で基本手当を受けられる
特例を使うには、次のすべてを満たす必要があります(リーフレットの要件を要約)。前提として、前の会社を辞めた時点で基本手当の受給資格(原則、離職日以前2年間に被保険者期間12か月以上)があることも要件です(大阪労働局版の同じリーフレットでは①に記載され、要件は①〜⑥)。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① | 事業の実施期間が30日以上 |
| ② | 事業を開始した日(または事業・準備に専念し始めた日)から30日を経過する日が、受給期間の末日以前 |
| ③ | その事業について、就業手当・再就職手当を受けていない |
| ④ | 自立できないと認められる事業ではない(登記事項証明書・開業届の写し・営業許可証などで実在を確認できる、等) |
| ⑤ | 離職日の翌日以後に始めた事業 |
ここが分かれ目:申請期限は「開業の翌日から2か月以内」
申請は、事業を開始した日(または専念し始めた日)の翌日から2か月以内です。提出先は住居所を管轄するハローワーク、本人来所か郵送で、受給期間延長等申請書・離職票-2(受給資格の決定を受けていれば受給資格者証)・開業届の写しや営業許可証などを出します。
閉店を決めた時点で「そういえば」と気づいても、多くの場合は期限を過ぎています。 例外として、就業手当・再就職手当を申請して不支給になった場合は、その申請日を特例の申請日として扱える旨がリーフレットに書かれています。
また、受給期間の残りが30日未満になってから開業した場合は、特例は適用されません(リーフレットの適用例3)。
⚠️ 自分が申請していたか覚えていない場合は、開業当時の控えを探すか、ハローワークに照会してください。推測で「申請したはず」と考えて動くと、閉店後の生活設計が崩れます。
例外3:法人の取締役でも、従業員として働いていた
法人で店をやっている場合、代表取締役は対象外です。一方、代表ではない取締役が、店長などとして従業員と同じように働いていた場合は、雇用関係が認められれば被保険者として扱われることがあります。
ただし、これは在職中に「兼務役員」としての手続き(兼務役員雇用実態証明書の提出など)がされていたかに左右されます。閉店の時点で後から主張して通るものではありません。さらに、離職したあとも取締役の地位が残っている場合は、失業給付は受けられないとされています。
家族で法人を回している店(代表が夫、取締役が妻、など)では、この扱いを一度確認しておく価値があります。
オーナーが閉店前にやっておくこと
- 開業前の勤め先の離職票・受給資格者証が手元にあるか探す(例外1・2の判断材料はこれ)
- 開業時に「受給期間の特例」を申請したか確認する。控えが無ければハローワークに照会
- 法人なら、自分と家族の役員の立場と、兼務役員の手続きの有無を確認する
- 従業員の雇用保険の手続き(資格喪失届・離職証明書)は、オーナー本人の可否と関係なく必ず行う(従業員への伝え方と解雇予告)
- 失業保険が出ない前提で、閉店後の数か月の資金を組む
5番が現実的な出発点です。閉店後に残る支払いは、原状回復・リース残債・借入の返済と重なります。お金の出入りは飲食店の閉店にかかる費用の総額、借入の行き先と公的な相談窓口は閉店後に残る借入金・負債、閉店後の税金の手続きは飲食店を閉めたあとの税金の手続きにまとめています。
まとめ
- オーナーとして働いた期間は、雇用保険の被保険者期間になりません。 個人事業主も代表取締役も同じです
- 例外1:開業前に会社員で、離職から1年以内に閉めた → 前の会社の受給資格が残っている可能性
- 例外2:開業から2か月以内に受給期間の特例を申請していた → 最大3年間を受給期間に算入しない
- 例外3:代表ではない取締役で、兼務役員として手続きされていた → 被保険者の可能性(役員の地位が残れば対象外)
- どれにも当たらなければ、失業保険が出ない前提で資金を組む
個別の受給可否と日数は、離職票と開業時の書類を持って住所地のハローワークで確認してください。
出典(確認日:2026-09-28)
- 厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「離職後に事業を開始等した方は雇用保険受給期間の特例を申請できます」(リーフレット LL040609保01)
- 厚生労働省「離職後に事業を開始等した場合の雇用保険受給期間の特例について」
- ハローワークインターネットサービス「基本手当について」
- 愛媛労働局「雇用保険の被保険者」
- 北海道ハローワーク「取締役等が被保険者となる場合の留意事項」
制度の内容は改正されることがあります。本記事は確認日時点の公的資料にもとづく一般的な整理で、個別の受給可否を判断するものではありません。
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