閉店の段取りは、たいてい「出ていくお金」から考えます。原状回復、リースの残債、解約の違約金。
見落とされやすいのは逆向きのお金です。お客様がすでに払っていて、店がまだ渡していないもの。 回数券の残り、チャージ残高、予約の前金、棚に並んだキープボトル。
これらは閉店しても消えません。そして、閉店の貼り紙を出した日から問い合わせが来ます。貼り紙より先に、何がどれだけ残っているかを数えておくのが、この記事の中心です。
店に残っている「前払い」は6種類ある
まず、自分の店にどれがあるかを確かめます。扱いが違うので、ひとまとめにしないでください。
| 種類 | 例 | お客様は代金を払っているか |
|---|---|---|
| 回数券・チケット | ランチ11枚綴り、コーヒーチケット | 払っている |
| プリペイド・チャージ残高 | 店独自のカード・アプリへの入金 | 払っている |
| 商品券・ギフト券 | 店が発行した食事券・贈答用の券 | 払っている(買った人と使う人が違うことがある) |
| 予約の前金・内金 | 宴会・貸切・コースの事前決済 | 払っている |
| キープボトル | 客名の札が付いた焼酎・ウイスキー | 払っている(中身は店の棚にある) |
| 無償のポイント・スタンプ | 来店ごとに押すスタンプカード | 払っていない |
最後の行だけが性質の違うものです。日本資金決済業協会のQ&Aは、無償で付与するポイントは前払式支払手段に当たらないとしています。スタンプカードの終了は、カードやアプリに書いた利用条件に沿って告知すれば足りることが多い部類です。
上の5行は、代金を受け取ったまま、まだ渡していない状態です。 ここを「閉店したから終わり」で済ませると、閉店後に苦情と返金の求めが来ます。
法律の手続きがかかるのは、どんな場合か
回数券・プリペイド・商品券は、資金決済法の「前払式支払手段」に当たることがあります。当たる場合、店を閉める=発行の業務をやめるときに、法律で決まった払戻しの手続きが要ります。
分かれ目は2つです。
分かれ目1:有効期限が6か月以内と書いてあるか
日本資金決済業協会のQ&Aは、有効期間6か月が明記されていれば、法の適用対象外としています。券やカードに「発行日から6か月」などと書いてあるかが基準です。書いていなければ、実際に6か月で使い切られていても、この除外には当たりません。
分かれ目2:未使用残高が1,000万円を超えたことがあるか
自店だけで使える券(自家型)の場合、基準日(毎年3月末・9月末)の未使用残高が初めて1,000万円を超えたときに、財務局への届出が必要になります。
届出をしている発行者が発行をやめる場合は、資金決済法20条により残高を払い戻す義務があります。手続きは、60日を下らない期間を定めて、その期間内に申し出るよう公告する形です(申し出なかった分は払戻しの手続きから外れる旨もあわせて公告します)。金融庁の案内では、払戻手続のお知らせの方法としてホームページ・日刊新聞紙・店頭等での掲示などが挙げられています。あわせて、発行の業務をやめたときは、遅滞なく財務局へ廃止の届出をします(資金決済法第33条第1項第1号)。
小さな店は「法律の手続きの外」でも、返す物は残る
個人経営の飲食店で、未使用残高が1,000万円を超える例は多くありません。その場合、上の公告・60日の手続きがそのまま当てはまらないことがあります。
ただし、それは「返さなくてよい」という意味ではありません。 お客様は代金を払い、店はまだ食事を出していない。この状態は、資金決済法の手続きとは別に残ります。
自店の券がどこに当たるか、どこまで返す義務があるかは、券の作り方と残高の規模で変わります。 この記事では「こうすれば大丈夫」とは書きません。判断は、税理士・弁護士、または所管の財務局に、券の現物と残高の集計を持って確認してください。
閉店日から逆算する、前払いの片付け方
閉店の段取り全体は引き渡し日から逆算するスケジュールに書いたとおりです。前払いの片付けは、その中で「閉店を公表する前」から始まる作業です。
1. 公表の前に、残高を数える
- 回数券:売った冊数と、回収した半券の数の差。台帳が無ければ、直近の販売記録から推計し「推計」と書いておく
- チャージ残高:システムやアプリの管理画面から、利用者別の残高を書き出す
- 商品券:発行した番号と、使われた番号の差
- 予約の前金:閉店日以降の日付の予約を全部拾う。予約サイト経由の事前決済は、サイト側の返金手順も確認する
- キープボトル:棚を実際に見て、札の名前・連絡先・残量を控える
この数字が、専門家に相談するときの材料になります。数字が無いまま「どうすればいいか」を聞いても、答えは「場合による」から先に進みません。
2. 販売を止める
閉店を決めたら、回数券・チャージ・商品券の新規販売を止めます。 公表前に売った分も返金の対象になるからです。常連に「閉めるから最後に」と回数券を勧めるのは、後で必ず揉めます。
3. 告知する:何を・いつまでに・どうやって
告知には次の4点を必ず入れます。
- 使える最終日(閉店日と同じとは限らない。予約の返金は閉店日より前に済ませる)
- 使い切れない分の扱い(返金するか、どの方法で)
- 申し出の方法と期限
- 閉店後の連絡先(店の電話が止まった後もつながるもの)
店頭の貼り紙だけでは、しばらく来ていないお客様に届きません。ホームページ、SNS、予約サイト、Googleのビジネスプロフィールにも同じ内容を出します。閉店のお知らせ全体の書き方は閉店お知らせの文例、閉店後にネットの情報を片付ける手順は情報の店じまいにまとめています。前払いの告知を出している間は、ネットの店舗情報を先に消さないでください。告知の置き場所が無くなります。
4. キープボトルは「引き取りに来てもらう日」を決める
キープボトルは、券と違って現物が店の棚にあるのが特徴です。
- 閉店日までに飲みに来てもらうか、持ち帰りの引き取りに来てもらうか、を告知する
- 控えた連絡先がある人には、個別に連絡する
- 引き取り期限の後どうするかも、告知の中で書いておく
札に名前しか無いボトルが多い店ほど、早めに貼り紙を出す必要があります。
5. 返金の記録を残す
返金した相手・金額・日付・方法を1枚にまとめて残します。閉店後の問い合わせに答える根拠になり、閉店後の税金の手続きでも使います(飲食店を閉めたあとの税金の手続き)。未使用のまま残った残高を帳簿でどう扱うかは、税理士に確認してください。
決済端末の解約と順番がぶつかる
チャージ残高や予約の事前決済は、決済サービスやPOSの契約とつながっていることがあります。返金をその経路で行うなら、返金が終わるまで契約を止められません。
キャッシュレス決済の入金は締めから遅れて着くため、解約を急ぐと最後の売上を取り逃がす、という話はPOSレジ・キャッシュレス決済の解約に書きました。前払いの返金も同じ理由で、解約は返金の後です。
まとめ
- お客様が払っていて、まだ渡していないものは閉店で消えない。回数券・チャージ・商品券・予約の前金・キープボトル
- 無償のポイント・スタンプは性質が違う(前払式支払手段に当たらない)
- 資金決済法の手続きの分かれ目は、有効期限6か月の明記と、未使用残高1,000万円(基準日:3月末・9月末)
- 届出をしている発行者が発行をやめるときは、60日以上の期間を定めた公告と払戻しが要る
- 手続きの対象外でも、受け取った代金の扱いは残る。券の現物と残高の集計を持って専門家へ
- 順番は 集計 → 販売停止 → 告知 → 返金・引き取り → 記録 → 決済の解約
出典(確認日:2026-09-29)
- 金融庁「前払式支払手段(商品券・プリペイドカード等)について」
- 一般社団法人日本資金決済業協会「前払式支払手段についてよくあるご質問」(有効期間6か月の除外・自家型の届出基準・無償ポイントの扱い)
- 関東財務局「払戻し手続きについて」
- 「資金決済に関する法律」(第20条 保有者に対する前払式支払手段の払戻し)
制度の内容は改正されることがあります。本記事は確認日時点の公的資料にもとづく一般的な整理で、個別の店の払戻し義務の有無を判断するものではありません。
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