閉店を決めて最初に見えてくる大きな出費が、原状回復です。そこで「店舗 原状回復費用 相場」と調べると、返ってくるのはたいてい坪あたり数万円から十数万円という、3倍以上の幅がある数字です。
これは相場が分かっていないからではありません。この工事の金額は、坪数ではほとんど決まらないからです。決めているのは次の3つです。
1. 契約書に書かれた「どう返すか」(スケルトンか、造作を残せるか) 2. 設備の量(ダクト・グリストラップ・給排水・電気容量) 3. 搬出経路と作業できる時間帯
この記事では、幅のどちら側に自分の店が来るのかを見分ける方法と、各社の見積もりを坪単価に直して比べる手順を整理します。金額そのものを言い当てることはできませんが、自分の店がどのあたりに来るかは、工事の前に判断できます。
そもそも坪単価とは何を割った数字か
坪単価は、工事の総額 ÷ 坪数です。つまり結果を後から割った数字であって、これを掛け算して総額が出てくるものではありません。
| 何で決まるか | |
|---|---|
| 坪数 | 物件で決まっている。動かせない |
| 工事の総額 | 返し方・設備量・搬出条件で決まる |
| 坪単価 | 上の2つを割った結果。予測には使いにくい |
同じ10坪でも、居酒屋とバーでは工事量が違います。厨房設備が多いほど撤去するものが増え、給排水と電気の復旧範囲も広くなるためです。業態が同じでも、居抜きで入った店とスケルトンから作った店では、戻す先が違います。
だから坪単価は、予算を作るための数字ではなく、見積もりを比べるための物差しとして使うのが実際的です。使い方は後半に書きます。
幅のどちら側に来るかを決める3つ
① 契約書の「返し方」——ここが最大の分岐
原状回復の範囲を決めるのは相場でも慣習でもなく、署名した賃貸借契約書です。 同じ物件でも、
- スケルトン返し(内装をすべて撤去して躯体まで戻す)
- 入居時の状態に戻す(前のテナントの造作が残っている場合、そこまで)
- 一部の造作を残して返す(貸主の合意が要る)
のどれかで、工事量が段違いに変わります。居抜きで入った店が「スケルトンで返す」契約になっていると、自分が作っていない部分まで撤去することになります。ここは金額を調べる前に、契約書を確認すべき箇所です。
範囲がどこで決まるのか、貸主・管理会社と認識をそろえる順番は飲食店の原状回復はどこまで?に詳しくまとめています。
② 設備の量——飲食店だけ金額が跳ねる理由
飲食店の原状回復が他業種より高くなるのは、撤去するものが重く、配管とつながっているからです。
- 排気ダクト——天井裏や外壁を通っており、撤去に足場や高所作業が必要になることがある
- グリストラップ——床を開ける工事になる
- 給排水の配管——増設した分を戻す
- 電気容量・分電盤——引き込みを増やしていれば戻す範囲が増える
- 防水・防火の下地——厨房床の防水をやり直している場合、そこも対象になる
この5つがどれだけ入っているかで、同じ坪数でも金額の性格が変わります。逆に言えば、カフェや物販に近い作りの店は、幅の下側に寄りやすいということです。
③ 搬出経路と作業時間
同じ工事量でも、出しにくい物件は高くなります。
- 上階・地下にある(エレベーターの制限、階段の手運び)
- ビルの共用部を通る(養生の範囲が広がる)
- 夜間しか工事できない(商業施設・オフィスビルに多い。人件費が上がります)
- 前面道路が狭くトラックを停められない
「工事は何時から何時までできますか」——見積もりを頼む前に、管理会社へ確認しておく項目です。ここが後から分かると、見積もりが取り直しになります。
自分の店が幅のどちら側かを見る
上の3つを、そのまま表にしたものです。チェックが右側に多いほど、坪単価は幅の上側に寄ります。
| 見る場所 | 下側に寄る | 上側に寄る |
|---|---|---|
| 契約の返し方 | 造作を残せる/入居時の状態 | スケルトン返し |
| ダクト | 短い・室内で完結 | 外壁や天井裏を長く通っている |
| グリストラップ | なし | あり(床を開ける) |
| 給排水・電気 | 入居時からほぼ変えていない | 増設している |
| 階数 | 1階・路面 | 2階以上/地下 |
| 作業時間 | 日中に作業できる | 夜間のみ |
| 搬出 | 店の前にトラックを停められる | 共用部を長く通る/停められない |
7項目のうち5つ以上が右なら、一般に言われる「坪あたり数万円」では収まらないと考えて予算を組んでください。
見積もりを坪単価に直して比べる
ここからが、坪単価の実際的な使い方です。各社の総額を坪数で割ると、見積もりの性格が見えてきます。
手順
1. 各社に同じ情報を渡す——図面、坪数、設備のリスト、契約書の返し方の条項、明渡し予定日、搬出経路と作業可能時間帯。情報を渡さない相手ほど、見積もりは高くなります。リスクを金額に織り込むからです 2. 総額 ÷ 坪数を出す——3社分を並べます 3. 開きが2割以内なら、条件は揃っている——あとは工期と支払い条件で選べます 4. 1社だけ大きく安い/高い場合は、金額ではなく項目を見る——たいてい含まれている範囲が違います 5. 「一式」の数を数える——一式が多い見積もりは、坪単価に直しても比較できません。分解を依頼してください
開きが出たときに見る場所
- 解体と処分が分かれているか(処分費は量で動くので、ここが一式だと後から動きます)
- ダクト・グリストラップ・防水が項目として立っているか(立っていない=含まれていない可能性)
- 養生・仮設・搬入搬出が入っているか
- 夜間割増が入っているか
- 産業廃棄物の処分費が別か込みか
「一式」を分解して比べる具体的な手順と、実際に減額につながった論点は原状回復の見積もりが高い気がしたらにまとめています。
工事をせずに済ませる選択肢もある
原状回復費用を下げる最も大きな手は、工事の中身を削ることではなく、「工事をしない形にできないか」を先に確かめることです。
居抜きで次のテナントに引き継げれば、原状回復そのものが不要になることがあります。造作を譲渡できれば、費用が出ていく側から入ってくる側に変わる場合もあります。
ただし、これは貸主の合意が前提です。次のテナントが決まらなければ成立せず、明渡し期限が近づくほど選びにくくなります。閉店を決めた時点が、いちばん選択肢の多い時期です。
居抜きで売るか、原状回復して返すかの損得は居抜きで売るか、原状回復して返すかで、金額の決まり方と進める順番は居抜き売却と造作譲渡で整理しています。
原状回復以外にかかるものも一緒に見る
原状回復だけを見て予算を組むと、あとで足りなくなります。閉店には他にも費用が出ます。
- 厨房機器・什器の処分または売却
- 残置物の処分
- 解約予告期間ぶんの賃料・違約金
- 各種の届出と手続き
機器に値が付けば、その分は出ていく費用を相殺できます。先に売れる物を確かめてから工事の範囲を決めると、順番として無駄がありません。
閉店にかかる費用を積み上げで見る方法は飲食店の閉店にかかる費用の総額に、機器がいくらで売れるのかは厨房機器の買取相場に、搬出経路が金額をどう左右するかは厨房機器の搬出経路にまとめています。
よくある質問
Q. 結局、坪単価はいくらで見ておけばいいですか。 A. 一般には坪あたり数万円から十数万円という幅で語られますが、この幅のどこに来るかは物件と契約で決まります。上の7項目のチェックで、自分の店がどちら側かの見当をつけてください。正確な金額は、現地を見た見積もりでしか出ません。
Q. 貸主が指定した業者しか使えないと言われました。 A. 契約でそう定められていることがあります。その場合でも、見積もりの内訳を出してもらい、項目ごとに必要性を確認することはできます。比較のために他社の見積もりを参考として取っておくと、話をする材料になります。
Q. 見積もりが1社しか取れませんでした。 A. 坪単価に直しても、比べる相手がいなければ判断できません。最低でももう1社、同じ情報を渡して取ってください。同じ情報を渡すことが条件です。渡す情報が違うと、金額の差が条件の差なのか値段の差なのか分かりません。
Q. 工事の途中で追加費用が出ることはありますか。 A. あります。壁や床を開けて初めて分かる部分があるためです。見積もりの段階で、追加が発生しうる箇所と、その場合の単価を確認し、書面かメールに残しておいてください。
Q. 原状回復を安くする交渉はできますか。 A. 金額そのものより、範囲と工期を動かすほうが通りやすいです。造作を残せないか貸主に確認する、工事を日中にできないか管理会社に相談する、産業廃棄物を減らすために売れる物を先に出す——どれも金額の根拠を変える方法です。
まとめ
- 坪単価は総額を坪数で割った結果であり、掛け算で予算を作れる数字ではない
- 金額を決めているのは①契約書の返し方 ②設備の量 ③搬出経路と作業時間の3つ
- 7項目のうち5つ以上が「上側」なら、坪あたり数万円では収まらない前提で組む
- 坪単価は予測ではなく、各社の見積もりを同じ土俵に載せるための物差しとして使う
- いちばん効くのは、工事をしない形(居抜き・造作譲渡)が取れないかを、閉店を決めた時点で確かめること
掲載した金額の幅は一般的な目安です。実際の費用は物件・契約・設備量・搬出条件によって大きく変わります。正確な金額は、現地を見た見積もりでご確認ください(確認日:2026-08-07)。

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