飲食店を閉めたあとの税金の手続き|個人事業と法人で何が違うか、届出の順番

店を閉めて鍵を返しても、税務の手続きはそこで終わりません。個人事業なら廃業の届出と、その年の分の確定申告が残ります。法人ならさらに、解散と清算という別の手続きが続きます。加えて、閉店にあたって設備を売ったり処分したりした分も申告に反映させる必要があります(個人事業と法人で扱いが違います)。この記事では、閉店後に必要になる税務の流れを、個人事業と法人に分けて整理します。
目次

まず押さえる:閉店日と、税務上の区切りは別

営業を止めた日と、税務上の手続きが完了する日は一致しません。閉店後も、その事業年度・その年分の申告義務は残ります。「もう店はないから申告も不要」と考えて放置すると、後から加算税や延滞税の対象になり得ます。

また、店舗の明け渡しが翌年にずれ込む場合、原状回復費や違約金がどの年分の経費になるかという論点も出てきます。金額が大きくなりやすい部分なので、閉店の時期を決める段階で確認しておく価値があります。

個人事業の場合に必要な届出

個人で営業していた場合、税務署などへ次の届出が必要になります。提出先と期限が書類ごとに異なる点に注意してください。

届出 提出先 期限の目安
個人事業の開業・廃業等届出書 税務署 廃業した年分の確定申告期限まで(2026年1月1日以後の廃業。それより前の廃業は1ヶ月以内)。国税庁個人事業の開業届出・廃業届出等手続
所得税の青色申告の取りやめ届出書 税務署 事業をすべて廃止した場合は不要。2026年1月1日以後は、廃止した年の翌年分から青色申告の承認が効力を失います(所得税法第151条第2項)
事業廃止届出書(消費税) 税務署 事業を廃止した後、速やかに
給与支払事務所等の廃止届出書 税務署 廃止から1ヶ月以内
事業開始(廃止)等申告書 都道府県・市区町村 自治体の定めによる

消費税の事業廃止届出書は、課税事業者(課税事業者を選んでいた場合を含む)で、廃止する事業のほかに課税売上に当たる所得(不動産所得など)がない場合に出すものです。インボイス(適格請求書発行事業者)の登録をしていた場合は、この届出書を出すと、事業を廃止した日の翌日に登録の効力が失われます(消費税法第57条の2第10項)。従業員を雇っていなければ給与関係の届出は不要になるなど、その店が該当するものだけを出す形になります。

予定納税をしている場合は減額申請の検討を——前年の所得をもとに予定納税額が決まっているため、年の途中で廃業すると実際の所得より多く納めることになる場合があります。所定の期限内に減額の申請をすることで、資金繰りの負担を抑えられることがあります。該当しそうなら、期限を含めて早めに税務署か税理士へ確認してください。

法人の場合は「解散」と「清算」の二段構え

法人は、廃業届を出して終わりにはなりません。解散と清算結了という二つの段階を踏み、それぞれで登記と申告が発生します。

段階 やること 伴う申告
解散 株主総会の決議(株式会社の場合)、解散登記、清算人の登記(いずれも2週間以内) 解散事業年度の確定申告
清算中 債権者への官報公告と個別の催告(2か月以上の期間)、債権の回収、債務の弁済、財産の換価 清算中の各事業年度の申告
清算結了 残余財産の確定・分配、清算結了登記 残余財産確定事業年度の申告

清算の途中では、設備や在庫を現金化して債務の弁済に充てることになります。この換価の過程で発生した損益も申告の対象です。手続きが複数年にまたがることもあり、個人事業に比べて負担は大きくなります。司法書士・税理士への依頼を前提に日程を組むのが現実的です。

設備を売った・捨てた分はどう扱うか

閉店では、厨房機器や什器の扱いが必ず発生します。ここは税務上も無視できません。

したこと 個人事業の場合(所得税) 法人の場合(法人税)
厨房機器・什器を買取業者に売った 原則として事業所得ではなく譲渡所得(総合課税)になります。売却額から取得費(未償却残高に当たる額)と売るための費用を引き、さらに特別控除50万円を引きます。持っていた期間が5年を超えるものは、その2分の1が課税の対象です。売って損が出ても事業の必要経費にはなりません。取得価額10万円未満の少額の資産や一括償却資産は、業務の性質上基本的に重要なものを除き、譲渡所得には含まれません 売却額と帳簿価額の差が売却益・売却損として、その事業年度の所得に入ります
廃棄・処分した 帳簿価額(未償却残高)が残っていれば、除却による損失として事業所得の必要経費に入ります。廃業した後に生じた損失や費用は、廃業した年分(またはその前年分)の必要経費に入れる特例があります(所得税法第63条) 帳簿価額が残っていれば除却損として損金になります
造作(内装・設備)を次の借主へ譲渡した 事業の売上ではなく譲渡所得として扱います。建物の附属設備に当たるものは、土地・建物と同じ分離課税(租税特別措置法第31条・第32条)になる場合があるため、区分は税務署か税理士に確認してください 売却額と帳簿価額の差が売却益・売却損になります
在庫や設備を自分(役員)のものにした 在庫の食材・酒などを家で消費した分は、その時の価額で事業所得の収入に入ります(所得税法第39条)。消費税の課税事業者なら、在庫や設備を家事に使った分は時価で売ったものとみなされます 会社の資産を役員に贈与した場合、消費税は時価で売ったものとみなされ、法人税でも無償の譲渡は収益として扱われます。安く譲った場合も時価との差が問題になり得ます

消費税は個人・法人で同じ考え方です。消費税の課税事業者であれば、販売用の商品だけでなく、事業に使っていた機械・設備を売った代金も課税の対象になります。免税事業者なら課税されません。売る時期が廃業の届出の後になる場合の扱いは、税務署か税理士に確認してください。(国税庁 No.3152 譲渡所得の計算のしかた(総合課税)・国税庁 No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法・国税庁 質疑応答事例「事業者の事業用固定資産の売却」・e-Gov 所得税法第33条・第39条・第51条。2026年10月7日確認)

ポイントは、捨てた場合でも損失として計上できる余地があることです。ただしそのためには、いつ・何を・どう処分したかを示す資料が要ります。処分業者の受領書やマニフェスト、買取の明細書は必ず保管してください。「捨てたから記録もない」となると、除却損の根拠を示せません。産業廃棄物と事業系一般廃棄物の分け方や、店側がマニフェストを交付して委託する形については飲食店の閉店で出る廃棄物の処分で扱っています。

売るか捨てるかは、税金だけで決めない——除却損が計上できるとしても、それは税負担が減るだけで、現金が入るわけではありません。処分費を払って捨てるより、値が付くものは売ったほうが手元の現金は増えます。判断材料は厨房機器・店舗備品の買取|値段がつく物とつかない物にまとめています。

赤字で終わった場合に使える可能性があるもの

閉店の年が赤字になることは珍しくありません。その場合、次のような取り扱いを検討できることがあります。

制度 概要
純損失の繰越控除(個人事業) 青色申告なら、損失を翌年以降3年間の所得から差し引ける場合がある(所得税法第70条)
純損失の繰戻し還付(個人事業) 青色申告なら、前年に納めた所得税の還付を受けられる場合がある。事業を廃止した年は、前年に生じた純損失を前々年分に繰り戻せる場合もある(所得税法第140条)
欠損金の繰戻し還付(法人) 青色申告の法人は、解散などの場合に、欠損金を前の事業年度に繰り戻して法人税の還付を請求できる場合がある(法人税法第80条第4項)
廃業後に生じた費用の特例(個人事業) 廃業した後に生じた費用・損失で、事業を続けていれば必要経費になったものは、廃業した年分(またはその前年分)の必要経費に入れられる(所得税法第63条)

いずれも適用の条件が細かく定められており、青色申告であることや期限内の手続きが前提になるものがあります。使えるかどうかは個別の状況によって変わるため、「使えるはず」と決めつけずに確認してください。閉店の年は判断材料が多く、税理士に相談する費用を上回る効果が出やすい場面です。

税務以外にも残る手続き

税務署への届出と同時に、次の手続きも期限があります。閉店の実務としては同じ時期に発生するため、あわせて把握しておいてください。

手続き 窓口
飲食店営業の廃業届 保健所
防火管理者の解任など 消防署
社会保険・雇用保険の資格喪失、適用事業所の廃止 年金事務所・ハローワーク
深夜酒類提供飲食店営業の廃止届など 警察署(該当する場合)

従業員がいた場合の対応は、税務よりも先に動く必要があります。詳しくは飲食店の閉店、従業員への伝え方と解雇予告を確認してください。

まとめ

閉店後の税務は、個人事業なら「届出+その年の申告」、法人なら「解散・清算の登記+複数回の申告」という構造になります。加えて、設備を売った分・捨てた分を申告に反映させる必要があり(個人事業では、売った分は原則として譲渡所得)、そのためには処分や買取の記録が要ります。

実務上いちばん多い失敗は、領収書や明細を残さないまま片付けを終えてしまうことです。片付けの段階から、何をいくらで売り、何を処分したかを残しておいてください。全体の流れは飲食店の閉店手続き完全ガイド、費用面は閉店にかかる費用の総額で確認できます。

本記事は一般的な情報の整理であり、税務上の判断を示すものではありません。法令・届出の内容は2026年10月7日に国税庁・e-Gov法令検索で確認しています。届出の要否・期限・各制度の適用可否は、事業形態や個別の状況、その時点の法令によって異なります。実際の手続きにあたっては、所轄の税務署または税理士へ必ずご確認ください。

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