閉店が決まり、原状回復の見積もりを取ったら、見慣れない行が入っていた。「石綿事前調査費」。あるいは逆に、どの見積もりにもその行が無い。
店舗の内装を壊す・設備を外す工事は、石綿(アスベスト)の事前調査の対象です。住宅の解体の話だと思われがちですが、店の原状回復も同じ法令の中にあります。この記事では、工事を頼む側として何を負担し、何を確かめ、何を用意すればよいかを、条文と厚生労働省の案内で整理します。
先に要点を表にします。
| 確かめること | 中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| 調査は要るか | 規模にかかわらず、解体・改修の工事なら必要 | 石綿障害予防規則 第3条/厚生労働省 石綿総合情報ポータル |
| 誰が調査するか | 工事の元請業者。建築物の調査は講習を修了した者などが行う | 大気汚染防止法 第18条の15・同施行規則 第16条の5/石綿則 第3条 |
| 費用は誰が持つか | 発注者は調査費用を適正に負担し、調査に協力する | 大気汚染防止法 第18条の15第2項 |
| 結果の報告は要るか | 改修工事なら請負代金が税込100万円以上で報告の対象 | 同施行規則 第16条の11/石綿則 第4条の2 |
| 調査が軽くなる場合 | 建物の着工日が平成18年9月1日以降と書面で分かるとき | 同施行規則 第16条の5/石綿則 第3条第3項 |
原状回復は「改修工事」に当たる
石綿の規制では、建物を「解体」する工事と、「改造・補修」する工事(改修工事)が対象です。店の原状回復で行うのは、たいてい後者です。
厚生労働省の石綿総合情報ポータルは、建築物の改修工事には模様替え・修繕のほか、建築設備(ガス・電気の供給、給水、排水、換気、冷暖房、排煙など)の設置・修理・撤去が含まれると説明しています。厨房のダクトや換気設備、給排水の配管、間仕切りや天井・床の仕上げを外す原状回復は、この範囲に入ります。
そのうえでポータルは、「事前調査そのものは、上記の規模によらずすべての工事で実施する必要があります」としています。小さな店の、小さな工事でも、調査は省けません。
調査をするのは元請業者、その費用を持つのは発注者
大気汚染防止法 第18条の15第1項は、解体・改造・補修の工事の元請業者(発注者から直接工事を請け負った業者)に、次のことを義務づけています。
- 設計図書などの書面と、目視で、石綿を含む建材があるかを調べる
- 調べた結果を、書面を交付して発注者に説明する
同条第2項は、発注者の側に向けた条文です。発注者は、元請業者が行う調査に要する費用を適正に負担することなどにより、調査に協力しなければならない、と定めています。
ここでいう発注者は、他から請け負ったのではなく、自分で工事を注文した人のことです(同条第1項のかっこ書き)。閉店する店の原状回復で、借主が業者と工事の契約を結ぶなら、借主が発注者になります。貸主が指定する業者に頼む場合(いわゆるB工事)も、工事の契約書で注文者として名前が載るのが誰かを確かめてください。B工事の考え方は原状回復の業者は自分で選べるのかにまとめています。
石綿障害予防規則 第8条も、発注者に、調査が適切に行われるよう配慮することと、建物の石綿の使用状況などを請負人に通知するよう努めることを求めています。
発注者として求められる「配慮」の中身
厚生労働省のポータル(発注者・施主向けのページ)は、発注者の配慮として次を挙げています。
- 石綿の有無を確かめるのに役立つ情報(設計図書、建築確認申請の副本など)を施工業者に提供する
- 事前調査の費用と、石綿が見つかった場合の除去などの工事に必要な費用を適正に負担し、工期や作業の方法についても、業者が法令を守って調査・工事ができるよう配慮する
- 石綿の除去などをする場合、作業の記録として写真の撮影を許可する
「調査費の分だけ安い見積もり」は、発注者にとって得な話ではありません。
見積書で確かめる3つ
ポータルは、発注者が見積もりの段階で確かめることとして、次の流れを示しています(解体・改修工事の発注者向けのページ)。
- 仮見積もりの段階:石綿の事前調査費用が計上されているか、調査をする人が建築物石綿含有建材調査者などの資格を持っているか
- 本見積もり(調査の結果が出た後)の段階:石綿事前調査結果報告書の提出を求める。石綿を含む吹付け材や保温材などがある場合は、労働基準監督署に出した計画届の写しを求める
- 工事の後:石綿の飛散を防ぐ措置がとられたことを示す作業の記録(写真を含む)の提出を求める
建築物の事前調査を講習修了者などが行う決まりは、令和5年(2023年)10月から始まっています(ポータル「改正石綿則のポイント」)。
原状回復の見積もりが「一式」でまとめられていると、調査費が入っているのかどうかも見えにくくなります。項目に分けて出してもらう方法は原状回復の見積もりが高い気がしたらで整理しています。
請負代金が税込100万円以上なら、結果の報告も要る
調査の結果は、工事の規模によっては役所への報告が要ります。報告するのは元請業者です。
| 工事 | 報告の対象になる規模 |
|---|---|
| 建築物の解体 | 解体する部分の床面積の合計が80㎡以上 |
| 建築物の改修(原状回復の多く) | 請負代金が税込100万円以上 |
(大気汚染防止法施行規則 第16条の11・石綿障害予防規則 第4条の2。税込の表記は厚生労働省のポータルによる)
ポータルは、石綿があるかないかにかかわらず、この規模に当たれば報告が要るとしています。報告は電子システム(石綿事前調査結果報告システム)で、労働基準監督署と自治体に向けて行います。電子での報告は令和4年(2022年)4月から始まっています。
同じ業者が1つの工事を2つ以上の契約に分けて請け負っても、1つの契約とみなして規模を判断します(同施行規則 第16条の11第3項・石綿則 第4条の2第4項)。
建物の着工日で、調査が書類の確認だけになることがある
石綿の製造・使用などは、平成18年(2006年)9月から禁止されています(ポータル)。このため、建物の新築工事の着工日が平成18年9月1日以降であることを設計図書などの書面で確かめられる場合は、目視の調査まではせず、その着工日を書面で確かめる方法によることができます(石綿則 第3条第3項第3号・大気汚染防止法施行規則 第16条の5第1号ただし書)。
ここで見るのは着工日です。竣工した年や、店が入居した年ではありません。テナントの側は建物の書類を持っていないことが多いので、貸主・管理会社に、建物の着工日が分かる書面(設計図書や建築確認の書類など)を出してもらえるかを早めに聞いてください。業者の調査が早く進みます。
それより前に着工した建物では、天井・壁・床の材料、吹付け材、配管の保温材などを1つずつ調べることになります。書面と目視で分からなかったときは、材料を採って分析する調査を行うか、石綿が含まれているものとみなして対策を講じます(同施行規則 第16条の5第3号・石綿則 第3条第5項)。
見つかった場合に、工期と費用が動くところ
調査で石綿を含む建材が見つかると、工事の進め方が変わります。
- 吹付け石綿や、石綿を含む断熱材・保温材・耐火被覆材などを除去する工事では、発注者が作業開始の14日前までに、都道府県(地方公共団体)へ特定粉じん排出等作業の実施の届出を出します(大気汚染防止法 第18条の17・ポータル「発注者・施主」)
- 除去の作業は、材料の種類に応じて作業場の隔離などの措置が要ります(ポータル「改正石綿則のポイント」)
- 元請業者は、調査の記録と説明の書面の写しを、工事が終わってから3年間保存し、現場には調査結果を掲示します(大気汚染防止法 第18条の15第3項・第5項/同施行規則 第16条の8)
14日前の届出が要る工事になると、明け渡しの日から逆算した工期に響きます。原状回復の見積もりと現地調査は、明け渡しの日が決まったらすぐに入れておくほうが安全です。工事の工程は店舗の原状回復工事は、何日かかって何をするのか、閉店全体の逆算は飲食店の閉店はどれくらいかかる?を参照してください。
想定事例:段取りをこう組む
以下は説明のための想定事例で、実在の店や工事ではありません。
賃貸のビルの1階で営業してきた店が、2か月後の明け渡しを決めた。原状回復の範囲は、厨房のダクト・給排水の配管の撤去と、客席の天井・床の仕上げのやり直し。
- 契約書で原状回復の範囲と、業者の指定があるかを確かめる(賃貸借契約書の7か所)
- 貸主・管理会社に、建物の着工日が分かる書面を出してもらえるか聞く
- 見積もりを取るとき、事前調査費の行と、調査者の資格を確かめる
- 請負代金が税込100万円以上になりそうなら、報告の対象になることを前提に、業者に報告の段取りを聞いておく
- 調査の結果を書面で受け取ってから、本見積もりと工期を決める
- 工事の前に、売れる厨房機器・什器を先に出しておく(撤去の対象が減る)
6は石綿とは別の話ですが、撤去する物を減らすと、調べる範囲も工事の量も減ります。順番は明け渡しまでに、買取をどの順番で入れるかにまとめています。
よくある質問
Q. 小さな店の、壁紙と床を張り替えるだけの工事でも調査は要りますか。 A. ポータルは、事前調査は規模によらずすべての工事で必要としています。報告が要るかどうかは規模(改修なら税込100万円以上)で分かれますが、調査そのものは別です。
Q. 新しいビルなので石綿は無いはずです。それでも調査費はかかりますか。 A. 着工日が平成18年9月1日以降だと書面で分かれば、調査はその書面の確認によることができます。書面が出てこないと、目視などの調査が要ることになります。貸主に書類を早めに頼んでください。
Q. 見積もりに調査費が入っていません。安いので、このまま頼んでいいですか。 A. 調査は元請業者の義務で、発注者はその費用を適正に負担することとされています。ポータルは、見積もりに事前調査費が計上されているかを確かめるよう案内しています。入っていない理由を業者に聞いてください。
まとめ
- 店の原状回復(内装・設備の撤去)は改修工事として石綿の事前調査の対象。調査は規模にかかわらず必要
- 調査は元請業者が行い、建築物の調査は講習を修了した者などがする(令和5年10月から)
- 発注者は調査の費用を適正に負担し、設計図書などの情報を出して協力する。借主が工事を注文するなら借主が発注者
- 改修工事は請負代金が税込100万円以上で、調査結果の報告が要る
- 建物の着工日が平成18年9月1日以降と書面で分かれば、調査は書面の確認によることができる。貸主に書類を早めに頼む
- 吹付け石綿・保温材などの除去が要る工事は、発注者が14日前までに届出。工期に響くので、見積もりと調査は早めに
出典(確認日:2026年10月9日)
- e-Gov法令検索「大気汚染防止法」第18条の15・第18条の17
- e-Gov法令検索「大気汚染防止法施行規則」第16条の5・第16条の8・第16条の11
- e-Gov法令検索「石綿障害予防規則」第3条・第4条の2・第8条
- 厚生労働省 石綿総合情報ポータル「発注者・施主」
- 厚生労働省 石綿総合情報ポータル「解体・改修工事の発注者のみなさまへ」
- 厚生労働省 石綿総合情報ポータル「石綿事前調査結果報告システム」
- 厚生労働省 石綿総合情報ポータル「改正石綿則のポイント」
本記事は確認日時点の法令と厚生労働省の案内にもとづく一般的な整理です。個々の工事で調査や届出が必要かどうか、費用の分担は、工事の内容・建物・契約によって変わります。具体的な判断は、工事を請け負う業者、労働基準監督署、都道府県・市区町村の担当窓口に確かめてください。
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