閉店のお金の話は、出ていくほうから考えがちです。原状回復、違約金、処分費。けれど、店を続けてきた間に積み立ててきたお金が戻ってくる仕組みもあります。代表的なのが、中小機構(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)の小規模企業共済と経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)です。
この2つは、閉店のしかたと手続きをする順番で、戻ってくる金額や税金の扱いが変わります。先に要点を書きます。
- 小規模企業共済:個人事業をすべて廃業したら「共済金A」、会社が解散したら役員は「共済金A」。どちらも掛金納付月数6か月以上が条件
- 閉店の前に資金繰りで任意解約すると、受け取るのは「解約手当金」に変わる。掛金月額1万円・10年なら、共済金Aは1,290,600円、解約手当金は1,020,000円(中小機構の例)
- 経営セーフティ共済:個人事業の廃業は自動的な解約にならない=自分で任意解約する。会社の解散は「みなし解約」。12か月未満は掛け捨て
以下、加入している人がまず確かめることから順に見ていきます。
まず確かめる:何に加入していたか
閉店を決めたら、手元の契約書類で、どの共済に加入しているか・加入した時期・掛金月額を確かめてください。
- 小規模企業共済:個人事業主や会社の役員などが加入し、廃業・解散・退任などのときに共済金を受け取る制度
- 経営セーフティ共済:取引先の倒産に備えて事業として掛ける制度。中小機構の案内では、掛金は法人なら損金、個人事業なら事業所得の必要経費に算入できるとされています
2つは名前が似ていますが、別の契約で、閉店のときの扱いも別です。両方入っている店は、それぞれ手続きが要ります。
小規模企業共済:閉店は「共済金A」の請求事由
誰が、どの事由で共済金Aになるか
中小機構の「共済金等請求・解約」のページでは、立場ごとに請求事由が決まっています。閉店に関係するところを抜き出すと次のとおりです。
| 立場 | 共済金A になる事由 | 備考 |
|---|---|---|
| 個人事業主 | 個人事業を廃業した場合 | 複数の事業を営んでいる場合は、すべての事業を廃止したことが条件 |
| 個人事業主の共同経営者 | 個人事業主の廃業に伴い、共同経営者を退任した場合 | 事業主がすべての事業を廃止したことが条件 |
| 会社等の役員 | 会社等が解散した場合 | 会社が破産した場合も該当 |
逆に、次の場合は共済金Aにはなりません。
- 店を閉めても、ほかに個人事業を続けている(例:飲食店は閉めたが、別の事業は続ける)
- 個人事業を法人成りして、加入資格がなくなった → 「準共済金」
- 会社の役員が、会社の解散や病気・けがによらず、65歳未満で役員を退任した → 「準共済金」
掛金納付月数の条件
- 共済金A・Bは、掛金納付月数が6か月未満だと受け取れず、掛け捨てになります
- 準共済金・解約手当金は、12か月未満だと受け取れず、掛け捨てです
開業して間もない店を閉める場合は、まずこの月数を確かめてください。
閉店の前に解約すると、金額が変わる
資金繰りが苦しくなると、閉店を決める前に「共済を解約して現金にしよう」と考えることがあります。ただ、契約者が自分から解約すると、受け取るのは解約手当金です。中小機構が示している例(掛金月額1万円で加入した場合)を並べます。
| 掛金納付年数 | 掛金合計額 | 共済金A | 解約手当金(平成16年4月以降の加入者) |
|---|---|---|---|
| 5年 | 600,000円 | 621,400円 | 480,000円 |
| 10年 | 1,200,000円 | 1,290,600円 | 1,020,000円 |
| 15年 | 1,800,000円 | 2,011,000円 | 1,665,000円 |
| 20年 | 2,400,000円 | 2,786,400円 | 2,400,000円 |
10年の例では、同じ掛金でも共済金Aのほうが270,600円多い計算です。解約手当金は掛金の80%〜120%で、掛金納付月数が240か月(20年)未満で任意解約すると、掛金の合計を下回ると中小機構は案内しています。共済金Aには、運用収入等に応じた付加共済金が加算される場合があります(解約手当金には加算されません)。
閉店する見込みが高いなら、任意解約ではなく、廃業してから共済金Aを請求できるかを先に確かめるほうが、手元に残る金額は大きくなりえます。資金が足りない期間をどうつなぐかは、借入やリースの扱いと一緒に飲食店を閉めたあとに残る借入金・負債はどうなる?で整理してください。
受け取り方と、税法上の扱い
受け取り方は「一括」「分割」「一括と分割の併用」の3つです。分割や併用を選べるのは、次をすべて満たす場合です。
- 共済金Aまたは共済金Bであること(死亡が請求事由でないこと)
- 請求事由が発生した日に60歳以上であること
- 共済金の額が、分割なら300万円以上、併用なら330万円以上(一括分30万円以上・分割分300万円以上)
税法上の扱いは、中小機構の案内では次のとおりです。
| 受け取り方 | 税法上の扱い |
|---|---|
| 共済金(死亡を除く)・準共済金を一括で受け取る | 退職所得 |
| 共済金を分割で受け取る | 公的年金等の雑所得 |
| 一括・分割の併用 | 一括分は退職所得、分割分は公的年金等の雑所得 |
| 65歳以上の人が任意解約 | 退職所得 |
| 65歳未満の人が任意解約 | 一時所得 |
| 掛金12か月以上の未払いによる解約(機構解約) | 一時所得 |
同じ制度から戻るお金でも、閉店してから共済金Aで受け取るか、閉店前に任意解約するかで、所得の区分も変わるということです。自分の場合の税額は、税理士か税務署で確かめてください。閉店の年の申告全体は飲食店を閉めたあとの税金の手続きにまとめています。
請求の手続き
中小機構の「共済金等請求手続きの流れ」のページで、いくつかの質問に答えると、請求事由と事由ごとの添付書類が表示されます。手続きの窓口も同じサイトに案内があります。添付書類は事由ごとに違うため、請求の前にそのページで確かめてください。
経営セーフティ共済:個人の閉店は「自分で解約」
経営セーフティ共済は、解約の種類が3つあります。
- 任意解約:契約者が自分で行う解約
- みなし解約:契約者の死亡、法人の解散、会社分割(事業の全部を承継させるもの)、事業の全部譲渡の場合に、その時点で解約されたものとみなされる(共済契約の承継が行われたときは解約にならない)
- 機構解約:掛金を12か月分以上滞納したときなどに中小機構が行う解約
ここで注意したいのは、個人事業主が店を閉めた(廃業した)ことは、みなし解約の事由に入っていない点です。個人の店は、閉店しても契約が自動では終わりません。引き落としを止めて解約手当金を受け取るには、自分で任意解約の手続きをします。止め忘れると掛金の引き落としが続くので、閉店したのに引き落としが止まらない|飲食店が解約を忘れやすい契約20のリストに加えておいてください。
戻る割合
解約手当金は、掛金総額に、掛金を納付した月数に応じた支給率を掛けた額です。
| 掛金を納付した月数 | 任意解約 | みなし解約 | 機構解約 |
|---|---|---|---|
| 1か月〜11か月 | 0% | 0% | 0% |
| 12か月〜23か月 | 80% | 85% | 75% |
| 24か月〜29か月 | 85% | 90% | 80% |
| 30か月〜35か月 | 90% | 95% | 85% |
| 36か月〜39か月 | 95% | 100% | 90% |
| 40か月〜 | 100% | 100% | 95% |
- 共済金の貸付を受けていた場合は、貸付額の10分の1に相当する額などが掛金総額から差し引かれます
- 解約月の掛金が算定に入るかどうかは、解約事由の発生日(任意解約なら請求書の申出日)が、その月の掛金振替日(27日。土日祝日なら翌営業日)より前か後かで変わります。前なら、その月の分は過払い金として返金されます
- 前納していた掛金のうち、まだ充当月が来ていない分は、掛金総額に入らず過払い金として返金されます
再加入するかもしれない人へ
中小機構は、令和6年10月1日以降に解約して再加入する場合、解約の日から2年を経過する日までに支払う掛金は、必要経費または損金に算入できないと案内しています。閉店後に別の形で事業を始める予定がある人は、解約の時期を決める前に確認しておくと安全です。
解約手当金を受け取ったときの申告上の扱いは、これまで掛金をどう処理してきたかとあわせて、税理士か税務署で確かめてください。
閉店までの段取りに入れる位置
共済の手続きは、閉店の段取りの中では「廃業した後」に来るものです。並べるとこうなります。
- 閉店を決めたら、加入している共済と掛金納付月数を確認する(6か月・12か月・240か月の線を見る)
- 資金繰りのための任意解約は、共済金Aとの差額を見てから判断する
- 廃業(個人)または解散(法人)の後に、小規模企業共済は共済金Aを請求
- 経営セーフティ共済は、個人なら任意解約の手続き、法人の解散ならみなし解約として解約手当金を請求
- 受け取った共済金・解約手当金を、その年の申告に反映する
閉店で手元に戻るお金はほかにも、敷金・保証金の返還、備品の売却代金などがあります。補助金や公的な支援との見分け方は閉店に使える補助金はあるのか、全体の費用の見積もりは飲食店の閉店にかかる費用の総額を参考にしてください。
まとめ
- 小規模企業共済は、個人事業をすべて廃業したら(会社なら解散したら)共済金A。掛金納付月数6か月未満は掛け捨て
- 閉店の前に任意解約すると解約手当金に変わる。掛金月額1万円・10年の例で、共済金A 1,290,600円に対し解約手当金 1,020,000円
- 一括で受け取る共済金は退職所得、65歳未満の任意解約は一時所得(中小機構の案内)
- 経営セーフティ共済は、個人の廃業はみなし解約にならない=自分で任意解約する。法人の解散はみなし解約。12か月未満は0%、40か月以上で100%
- 令和6年10月1日以降に解約して再加入すると、2年間の掛金は必要経費・損金にならない
出典(確認日:2026年10月7日)
- 独立行政法人 中小企業基盤整備機構「共済金等請求・解約|小規模企業共済」(請求事由・掛金納付月数の条件・共済金等の額の例・受取方法・税法上の取扱い)
- 独立行政法人 中小企業基盤整備機構「共済契約の解約|経営セーフティ共済」(解約事由・解約手当金の支給率・掛金の算定上の注意・再加入時の掛金の扱い)
- 独立行政法人 中小企業基盤整備機構「経営セーフティ共済の魅力について」(掛金の損金・必要経費算入)
制度は改正されることがあります。本記事は確認日時点の中小機構の案内にもとづく一般的な整理で、個別の契約の受取額や税額を判断するものではありません。請求・解約の前に、中小機構の手続き窓口と税理士・税務署で最新の扱いを確認してください。
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