閉店にいくらかかるかは、業者の見積で決まると思われがちですが、大枠は契約書を結んだ日に決まっています。
原状回復をどこまでやるか、業者を選べるか、敷金がいくら戻るか——これらはすべて契約書の条項の話で、閉店を決めてから交渉して動く幅は、そう大きくありません。
だからこそ、請求書が届く前に、契約書を読む必要があります。読む場所は7か所です。
① 解約予告期間
「解約する場合は◯ヶ月前までに書面で通知する」という条項です。店舗では6ヶ月前という設定も珍しくありません。
ここで決まるのは、閉めたあとも賃料を払い続ける期間です。
- 予告が遅れた分は、そのまま賃料の支払いが延びます
- 「即時解約する場合は◯ヶ月分の賃料相当額を支払う」という違約条項が併記されていることもあります
閉店を決めたときに、いちばん最初に見るのがここです。 通知が1ヶ月遅れれば、賃料1ヶ月分がそのまま損失になります。
② 原状回復の「範囲」
もっとも金額が動く条項です。書き方によって、まったく違う工事になります。
| 記載 | 意味するところ |
|---|---|
| スケルトン返し | 内装・設備をすべて撤去し、コンクリートの躯体まで戻す。最も高額 |
| 入居時の状態に戻す | 入居時が居抜きなら、その状態まででよい可能性がある |
| 借主が設置したものを撤去 | 造作の所有関係で判断が分かれる |
「入居時の状態」と書かれている場合、入居時の写真や引渡し時の図面が根拠になります。 手元にあるか確認してください。無ければ、貸主や管理会社が持っていることがあります。
⚠️ 住宅の賃貸で使われる国土交通省のガイドライン(経年劣化は貸主負担、という考え方)は、事業用の店舗にそのまま当てはまるとは限りません。 契約書の記載が優先される場面が多く、住宅の常識で判断すると外します。
③ 工事区分(A工事・B工事・C工事)
商業ビルの契約では、工事を3つに分ける書き方がよく使われます。
- A工事:貸主が発注し、貸主が費用を負担
- B工事:貸主が業者を指定し、費用は借主が負担
- C工事:借主が業者を選び、費用も借主が負担
問題になるのはB工事です。業者を選べないのに支払うのは自分という構造なので、相見積もりが取れません。
契約書に工事区分の定めがある場合、原状回復のどこがB工事に当たるかを先に確認してください。ここが広いほど、金額の交渉余地は狭くなります。
④ 敷金・保証金の「償却」
差し入れた敷金・保証金が、全額戻るとは限りません。
- 償却(敷引き):契約時から一定割合が返らないと定めた条項。「保証金の20%を償却する」といった書き方
- 原状回復費との相殺:工事費を差し引いた残りが返還される
つまり、戻る金額 = 預けた額 − 償却分 − 原状回復費です。原状回復費が償却後の残額を超えれば、返ってこないどころか追加で支払うことになります。
閉店の資金繰りを考えるとき、敷金が戻ってくる前提で計算しないでください。返還の時期も「明渡し後◯ヶ月以内」と定められていることが多く、すぐには入りません。
⑤ 造作の譲渡(居抜きで売れるか)
居抜きで次のテナントへ引き継げれば、原状回復の工事費が丸ごと不要になることがあります。これは閉店の費用を最も大きく動かす選択肢です。
ただし、契約書で禁じられていることがあります。
- 「造作の譲渡を禁ずる」
- 「第三者への譲渡には貸主の書面による承諾を要する」
後者なら、貸主の承諾を取りに行けば道が残ります。 承諾なしに進めると契約違反になるので、必ず先に確認してください。
また、造作買取請求権について特約で排除されている契約も多くあります。ここは判断が分かれる部分なので、金額が大きいなら専門家に契約書を見てもらうほうが確実です。
⑥ 明渡しの定義と、賃料の日割り
「明渡し」がいつ完了したことになるかは、意外と揉めます。
- 原状回復工事の完了までが明渡しと定められている場合、工事期間中も賃料が発生します
- 賃料が日割りにならない(月単位)契約もあります
工事に2週間かかるなら、その2週間分の賃料を見込んでおく必要があります。「閉店した日=支払い終了」ではありません。
⑦ 看板・附属設備の扱い
見落とされやすいのがここです。
- 袖看板・屋上看板・ファサードの造作
- 空調の室外機、ダクト、グリストラップ
看板の撤去は、高所作業車や道路使用許可が必要になると、金額が跳ねます。 契約書に「借主が設置した広告物は撤去する」と書かれていれば、これも原状回復の範囲です。
読んだあとにやること
1. 解約予告の期限から逆算して、通知日を決める 2. 原状回復の範囲を確定させ、その条件で見積を取る 3. B工事の範囲を確認する(相見積もりが取れる部分を切り分ける) 4. 居抜き譲渡が可能か、貸主に確認する 5. 敷金の返還時期と金額を、資金繰りの表に入れる
契約書の解釈で争いになりそうなときは、請求書が届いてからでは動かせません。 早い段階で、弁護士など専門家に相談することを検討してください。
- 予告期間と敷金の詳しい話は 店舗の解約予告は何ヶ月前? にまとめています。
- 原状回復の範囲でもめないための手順は 飲食店の原状回復はどこまで? をどうぞ。
- B工事で相見積もりが取れないときは 原状回復の業者は自分で選べるのか が参考になります。
- 居抜きと原状回復のどちらが得かは 居抜きで売るか、原状回復して返すか で比較しています。

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