居抜き売却と造作譲渡|金額の決まり方と、進める順番

設備が残る居抜き厨房
居抜きで店を譲るとき受け取るお金を造作譲渡料といいます。相場を調べると「数十万円から数百万円」といった幅の広い数字ばかり出てきますが、それは大雑把なのではなく、金額を決める要素が物件ごとに違うためです。同じ設備でも、立地と契約条件が変われば値段は変わります。この記事では、造作譲渡料が何で決まるのか、そして受け取る前に確認しないと話が壊れる前提条件を、閉店する側の視点で整理します。金額そのものより、順番を間違えないことのほうが結果を左右します。
目次

造作譲渡とは何を売っているのか

造作譲渡とは、店舗の内装・厨房設備・什器などを、次に入る借主へそのまま引き継ぐことです。ここで誤解が多いのですが、売っているのは「物」だけではありません。次の借主から見た造作譲渡の価値は、次の3つで構成されています。

買い手が払っている対価 中身
設備そのもの 厨房機器、空調、給排気、内装、客席の什器
省ける工事費 ゼロから作れば数百万円単位でかかる内装・設備工事を省ける
省ける時間 工事期間中の家賃(いわゆる空家賃)と、開業が早まる分の売上

3つ目が見落とされがちです。買い手にとって居抜きの魅力は「安く買えること」以上に「早く開けられること」にあります。つまり、あなたの店の設備が新しいかどうかだけでなく、買い手がすぐ営業を始められる状態かが金額に効きます。逆に言えば、そのまま使える状態を壊さないことが、そのまま金額を守ることになります。

金額の決まり方——相場に幅が出る理由

造作譲渡料に決まった算定式はありません。実際には、次の要素の組み合わせで決まります。

要素 金額が上がる方向 金額が下がる方向
立地と物件の人気 駅近・繁華街・そもそも空きが出にくいエリア 集客が弱い立地、同種の空き物件が多いエリア
設備の状態と年式 年式が新しい、動作に問題がない、清掃されている 故障・不動品がある、老朽化、油汚れが放置されている
業態の汎用性 次の借主が業態を変えても使える(一般的な厨房構成) 特殊な設備に寄っている(専用炉、特殊な排気など)
残された時間 余裕がある。複数の買い手を比較できる 退去期限が迫っている。足元を見られる
契約の引き継ぎやすさ 貸主が居抜きに前向き、条件が明快 貸主の承諾が不透明、条件が後から動く
最も金額を落とすのは、設備の古さではなく「時間がないこと」です。退去まで1か月を切ってから動くと、買い手は「どうせ置いていくしかない」と分かったうえで交渉してきます。反対に、余裕をもって複数の候補と話せる状態なら、同じ設備でも条件は変わります。造作譲渡料を最大化する一番現実的な方法は、設備を磨くことではなく早く動き始めることです。

「値段がつかない」ことも普通にある

正直に書きます。造作譲渡は必ずお金を受け取れる仕組みではありません。立地が弱く、設備も古い場合、譲渡料ゼロ(無償譲渡)で引き継いでもらうことも珍しくありません。それでも意味はあります。原状回復工事を行えば、その費用は自分の持ち出しになるからです。ゼロ円で譲れたなら、その工事費を回避できたことになります。プラスを取りに行く話と、マイナスを避ける話は分けて考えてください。原状回復の範囲については飲食店の原状回復はどこまで?で整理しています。

先に確認する2つの前提条件

金額の話より先に確認することがあります。ここが崩れると、話がまとまってからひっくり返ります。

① 貸主(オーナー)の承諾があるか

居抜きでの引き継ぎは、借主どうしの合意だけでは成立しません。多くの賃貸借契約では、退去時に原状回復義務が定められています。居抜きで渡すということは、その原状回復をしないという意味ですから、貸主の承諾が前提になります。加えて、次の借主は貸主と新しく賃貸借契約を結ぶ必要があり、その審査に通らなければ話は進みません。

買い手が見つかってから貸主に相談して断られる、という順番が最もつらい展開です。まず契約書を読み、貸主または管理会社に居抜きの可否を確認する。ここが出発点です。

② その設備は本当に自分の物か

店内にあるものが、すべて自分の所有物とは限りません。次のものは造作譲渡の対象にできない、あるいは手続きが別に必要になる可能性があります。

  • リース中の機器:所有権はリース会社にあります。勝手に譲渡できません。残債の精算や引き継ぎの可否はリース会社との契約次第です。
  • 割賦(分割)払いの途中の機器:所有権留保が付いている場合があります。
  • 貸与品:ビールサーバー、製氷機、コーヒーマシンなど、酒販店やメーカーからの無償貸与であることがあります。「ずっと店にあるから自分の物」と思い込んでいるケースが本当に多い設備です。
  • 前の借主から引き継いだ造作:自分が居抜きで入った店なら、契約上の扱いを確認してください。
  • 貸主所有の設備:空調などが物件付帯の設備であることがあります。
ここを確認せずに造作譲渡契約を結ぶと、契約後にトラブルになります。「譲ったはずの製氷機が実は貸与品で、引き揚げられた」という事態は、買い手にとっては約束が違うという話になります。店内の設備を一覧にして、所有・リース・貸与のどれかを1台ずつ確認するところから始めてください。この作業は閉店手続き全体の土台にもなります。手順は飲食店の閉店手続きチェックリストにまとめています。

進める順番——解約予告から逆算する

居抜き売却は、退去期限から逆算して組み立てます。順番を間違えると、金額を交渉する余地そのものが消えます。

順番 やること ここでのポイント
1 賃貸借契約書を確認する 解約予告期間(事業用では6か月前などの例もある)、原状回復の範囲、譲渡・転貸の可否
2 貸主・管理会社に居抜きの可否を確認 ここが不可なら原状回復一択。以降の計画が変わる
3 設備の棚卸し(所有・リース・貸与の仕分け) 譲渡できる範囲を確定させる
4 買い手を探す・査定を受ける 複数の条件を並べて比較する。1社だけで決めない
5 造作譲渡契約を結ぶ 対象設備・金額・引渡日・故障時の扱いを書面に
6 解約通知・引渡し 解約のタイミングは貸主・次の借主と足並みを揃える
解約通知を出す前に、契約書の解約予告期間を必ず確認してください。事業用の賃貸借では、住居用より長い予告期間が定められていることがあります。予告期間の分だけ、営業していなくても家賃は発生します。「今月で閉めます」と言って翌月から家賃が止まるとは限りません。閉店日を決める前に、家賃がいつまで発生するのかを先に確定させるのが鉄則です。

造作譲渡契約で決めておく項目

口約束や簡単なメモで済ませると、引渡し後に必ず揉めます。最低限、次の点は書面にしてください。

  • 譲渡する設備の一覧:型番・台数まで。「厨房設備一式」は後で解釈が割れます。
  • 譲渡しない物の明示:持ち出す物、リース品、貸与品。
  • 金額と支払時期:手付、残金、支払い方法。
  • 引渡しの日と状態:清掃の程度、残置物をどうするか。
  • 引渡し後に故障が見つかった場合の扱い現状有姿(今ある状態のまま)での引渡しなのかどうかを明記。ここが最も揉めます。
  • 賃貸借契約が成立しなかった場合の白紙解除:次の借主が貸主の審査に通らないことは実際にあります。

設備を個別に手放す場合の考え方はテーブル・椅子・什器の買取、居抜きの全体像は飲食店の居抜き対応もあわせてご確認ください。

よくある質問

造作譲渡料に消費税はかかりますか?

造作譲渡は資産の譲渡にあたるため、課税事業者が事業として行う場合には消費税の課税対象となるのが一般的とされています。ただし、ご自身が課税事業者かどうか、免税事業者かどうかで扱いは変わります。また受け取った譲渡料は所得の計算にも関わります。税務の取り扱いは個別の事情で変わるため、必ず税理士や所轄の税務署にご確認ください

買い手が見つからないまま退去期限が来たらどうなりますか?

原則として、契約に沿った原状回復を行って明け渡すことになります。工事には日数がかかるため、期限直前まで買い手を探し続けると、原状回復に着手する時間がなくなり、明け渡しが遅れて家賃が延びるという最悪の形になりがちです。「いつまでに買い手が決まらなければ原状回復に切り替える」という判断期限を、あらかじめ決めておいてください。

不動産会社に頼むのと、買取業者に頼むのは何が違いますか?

次の借主(店をやる人)を探すのが不動産・居抜き仲介、設備そのものを引き取るのが買取です。両者は排他ではありません。居抜きで店ごと引き継ぐ相手が見つかればそれが最も高くなりやすい一方、時間がかかります。買い手が見つからない設備だけを買取に回す、という組み合わせも現実的です。当サイトは飲食店の閉店に関する情報メディアで、買取・回収は提携先へのお取次ぎとなります。

営業しながら買い手を探せますか?

可能ですし、そのほうが有利です。設備が動いている状態のほうが買い手は判断しやすく、閉めて放置した厨房より印象が良いからです。ただし従業員や取引先に閉店が伝わる順番には注意が必要です。店内で堂々と査定を行えば現場は必ず気づきますので、営業時間外に動くか、先に伝えるかを決めておいてください。

まだ閉めると決めきっていない段階でも、確認だけは先に始められます。契約書の解約予告期間、貸主の居抜き可否、リース・貸与品の仕分け。この3つが分かるだけで、取れる選択肢と期限がはっきりします。設備が店内に残っている段階でご相談いただければ、居抜きで譲る場合と、設備だけ手放す場合を並べて比較できます。ご相談は無料査定・お問い合わせフォームから。当サイトは情報メディアであり、買取・回収は提携先へのお取次ぎとなります。
本記事は一般的な情報の整理であり、個別の契約・税務・法律に関する助言ではありません。原状回復の範囲、解約予告期間、譲渡や転貸の可否は賃貸借契約の内容によって異なり、造作譲渡料の水準も物件・立地・設備・時期によって大きく変動します。リース・割賦・貸与品の扱いは各社との契約によります。実際の判断にあたっては、賃貸借契約書をご確認のうえ、貸主・管理会社、リース会社、税理士、弁護士等の専門家にご相談ください。
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